アーニャはきっと来る


2019年、英/ベルギー映画。監督ベン・クックマン。

第二次大戦中の南仏、ピレネー山脈の麓の小さな村を舞台にした、英児童文学作家マイケル・モーバーゴの小説の映画化。

1942年、パリや北部のユダヤ人の強制退去がはじまるが、南仏にはまだナチが来ていない。

この時代背景は『黄色い星の子供たち』(2010)や『小さな赤いビー玉』(1975)を思い出す。ユダヤ人が移送される時に、男が娘を列車の女性に託すエピソードから始まる。

主人公は少年ジョー(ノア・シュナップ)で、母と祖父と暮らし、羊飼いの仕事をしている。父はドイツ軍の収容所にいる。年老いたジョーが回想をして語る形で進む。

美しい風景に目を見張らされ、牧歌的に始まるが、熊の出現というドラマチックな展開が。仕留められた後、ジョーは愛犬を捜しに行き、ベンジャミンという男(フレデリック・シュミット)に出会うが、会ったことは内緒にする約束をする。

その男は冒頭の男で、ユダヤ人の子供たちを山脈を越えてスペインへ逃がす計画を立てていた。ジョーはその援助をしようとするが、この村にもナチスの兵士がやって来る。父が帰郷し、心はすさんでいたが、ジョーの救出作戦に協力をする。

そして、村人こぞって団結しながら子供たちを移動させるが、ベンジャミンの娘アーニャはまだ来ていない。ベンジャミンとレアがつかまり、どうなったかわからないままに終戦となる。

ジョーのおじいさん役はジャン・レノでさすがの貫禄だ。印象に残るのは、少年ユベール(デクラン・コール)だ。ラストの悲劇は見ていて辛い。決してハッピーエンドにはしなかった。そして一年後、成長したアーニャがおばあさんのところにやって来る…。

                                       倒れたユベールに駆け寄るジョー

適度な緊張感を保ちながら、温かさの伝わる作品であった。ノア・シュナップ(2004年生まれ)は『エイブのキッチンストーリー』に続いて主役として好演していた。山越えでユダヤ人を逃すというのは『ベル&セバスチャン』(2013)でも同様だった。あの作品ではアルプス越えだったが。



 

ファヒム パリが見た奇跡


2019年、フランス映画。ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル監督。

チェスをする少年を描いた映画は『ボビー・フィッシャーを探して』(1993)が強く印象に残るが、この作品の舞台はフランスのパリ。バングラデシュから父とともに政治的な理由で逃れてきた難民の少年が、チェスで自らの運命を切り開いた事実に基づくという。

主人公は少年ファヒム(アサド・アーメッド)で、母と別れ、父とパリにたどり着き、難民センターの世話になる。

ファヒムがチェスのグランドマスターに会いたいとの一心で、チェス教室の指導者シルヴァン(ジェラール・ドパルデュー)と出会う。父は難民申請をするもうまくいかず、仕事も見つからない。

ファヒムは利発でフランス語の習得も早く、父の申請にかかわってインド人のいいかげんな通訳に怒る。ファヒムはチェスの予選を勝ち上がり、全国大会はマルセイユで。ファヒムは初めて見る海に感激する。出場にかかわって障壁があったものの無事大会に出ることができ優勝する。

シルヴァンの助手のマチルド(イザベル・ナンティ)の尽力もあり、父も申請が通る。描き方によっては重くなるテーマが含まれているが、ファヒム少年の明るさや、ひと癖あるコーチを演じたドパルデュー(さすが名優だ)により温かいものが伝わる。

                    セーヌ河畔での父子       難民センターでチェスを教える

教室の仲間と                                  シルヴァンと

ファヒムを演じたアサド・アーメッドは、撮影の3か月前にバングラデシュからやってきたばかりだという。ファヒム=アサド少年という両面でこの映画が出来上がっている。ちなみに、上段中の画像はセーヌ河畔を歩く父子、バックに映るノートルダム大聖堂、火災で尖塔などが崩落したのは2019年4月15〜16日、この場面はそれ以前に撮影されたのだろう。



 

Low Tide


ピーター、アラン、レッド、スミティ

2019年、アメリカ映画。ケヴィン・マクマリン監督。

低予算の青少年犯罪スリラーであるが、結末は見えるものの、そこにどう至るか面白く見られた。

題は『干潮』の意味、舞台はニュージャージーの海岸近くの町の夏。ハイティーンのアラン(キーアン・ジョンソン)は母を亡くし、父は仕事でほぼ不在で弟のピーター(ジェイデン・マーテル)と暮らしている。

アランは、レッド、スミティとともに留守宅に入って窃盗をしていたが、ある夜住人が帰宅して、あわてて2階から飛び下りたスミティは左足を骨折する。

仲間が一人欠けたので、ピーターを見張り役で仲間に入れ、ボートで島に渡り、亡くなった人の家に入り、アランは床板の下に何かあることに気づき、ピーターに細い腕を伸ばして取らせるが、銀貨が入っていて、二人の秘密にした。

一枚を骨董屋に持っていくと1,000ドルの値がつく…。財宝との出合いは、仲間との分断を引き起こし、最後は悲劇に…というこれまでの映画でよく見られた展開である。

アランはメアリー(クリスティン・ブロセス)と出会い、恋心を抱いていた。アランは銀貨を少し売って車を買ったことから、まずは、勘のいいスミティがアランを追求する。

隠した残りの銀貨を取りに行き、そこに現れたレッド、そして起こる悲劇。このラストが疑問を残し、解決にもなっていない。その後たどる運命については見る人の想像に任せるのか。


ジェイデン・マーテル(2003年生まれ)は、この年に『IT THE END それが見えたら終わり』(番外編377)にも出ていたが、少年期最後の作品である。



 

ゴースト・ホーム・アローン


2019年、アメリカ映画。アジマル・ザヒール・アーマッド監督。

知名度の高い『ホーム・アローン』の題をちゃっかり借用したホラー映画で、喜劇ではない。

主人公は9歳の少年イーライ(パーカー・スミアク)、クラスで悪霊であるバーグリー怪物の話をする。それは地下に棲み、子供の魂を集めているという。これはイーライが姉から聞いた話。

面白そうな題材であるが、夏でも地下の暖炉に火がついたりして思わせぶりな描写や音で驚かせたり、ストーリー展開もこじつけの感をまぬがれない。

姉のエミリー(エマニュエル・タルコウ)はイーライに対して思いやりがなく、意地悪である。親友はサム(レミントン・ギールニアック)で、彼はイーライにいろいろと協力的である。

また、ヒラリー(アリエル・オルホフスキー)はバーグリーにまつわる過去の事件の情報を寄せ、そこからイーライは年寄りに事件のことを聞いたりする。単発的に面白そうでも、脈絡としてつながらず、残念である。

ある夜両親は子供たちを残して出かける。エミリーのボーイフレンドのドミニクがやってきて二人でイーライの面倒を見るはずが、父はイーライにドミニクの見張りを頼むのだ、「まだ孫はいらない」という意味深なセリフが。ところが二人は出かけてしまい、イーライは完全に一人ぼっちになる。

ここからイーライは地下の悪霊と闘うことになるが、この種の映画での描写と変わらず、暗い中での行動、途中で起きる停電で黒い影がよりわからなくなる。サムとはトランシーバーで連絡をとるが、イーライに悲劇が起きる。警察が来てイーライは死後3時間の状態で発見される。

アメリカ映画らしくない結末であるが、両親や姉にイライラしてしまう。

イーライとサム                                     

イーライ役のパーカー・スミアク(2006年生まれ)はかわいらしく、そして姉の言葉を信じたりして純粋な少年なのだろう。暗闇での恐怖に立ち向かう姿は良いが、本人と魂の経験とがあいまいなのが残念である。サム役のレミントン・ギールニアックは2005年生まれ。



 

弟は僕のヒーロー


2019年、イタリア/スペイン映画。ステファノ・チパーニ監督。

春風のような温かいファミリー映画だ。しかし、時にはまだ寒さもある。そんな雰囲気がある。

ジャコモ・マッツァリオールの『弟は恐竜を追う』を原作としており、作者は共同脚本に参画している。主人公はジャックで、幼少の頃(ルカ・モレッロ)から中高生(フランチェスコ・ゲギ)まで弟とのかかわりが描かれる。

ジャックは弟が出来ることをたいそう喜ぶ。両親から弟は特別な子だと言われ、特殊能力をもったスーパーヒーローだと思っていた。弟ジョーの幼少をアントニオ・ウラス、その後をロレンツォ・シストが演じていた。

ジョーはダウン症であったが、その屈託のない笑顔がすばらしく、家族の皆に温かい雰囲気をもたらしてくれるヒーローであった。

しかし、ジャックが地元でなく町の高校を選び、出会った女の子マリアンナに一目惚れをする。この頃特有の感情から、ジャックは弟の存在をないものにして嘘をつき、さらに弟のネット動画を削除して、それをネオナチの仕業にするひとりよがりのことをする。

幼なじみのヴィット(ロベルト・ノッキ)にも愛想をつかされ、マリアンナからも軽蔑され、落ち込むジャック。それを救ったのはジョーだった。僕のヒーローの本当の意味が最後でわかる。家族に支えられ、ジャックとジョー二人の成長物語として心に残る作品だ。


ドロレス叔母役のロッシ・デ・パルマは「この作品は、見た後にあなたがより良い人になって映画館を出る、そんな映画の1本だ」と述べている。




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